アメリカでの離婚

「離婚」というのは誰にとっても簡単なことではありません。特に外国においての離婚は弁護士を雇うなど慣れないことが多く、国を越えて子育てを考えることはたいへん複雑です。わからない点も多く、思いとどまっている方もいらっしゃるかもしれません。また子育てのために海外で暮らしていかなくてはいけない場合も多くの不安があると思います。そうした方々のために、国際離婚について少しでもわかりやすく説明し、将来の生活を考える機会にして頂ければと思います。なお、この情報はマサチューセッツ州の情報をもとにしています。また個人によっても状況が違いますので、細かい点は各州の弁護士の方や支援団体などにお問い合わせください。

0. 日本とアメリカの離婚制度の違い


日本とアメリカでは、離婚の制度が大きく異なります。どのような点が異なるのでしょうか?

大きなポイントは、①離婚届だけで離婚ができるかどうか ②共同親権か単独親権か ③子どもを連れて実家に帰ることができるか、の3点です。

それでは、順番に見ていきましょう。


(1)離婚届だけで離婚ができるかどうか


日本では、お互いに離婚することに同意している場合は、離婚届を役所(市役所や区役所、役場など)に提出するだけで離婚が成立します。裁判所での手続きは必要ありません。窓口で離婚届が受理されれば、その日のうちに離婚が成立します。


これに対して、アメリカでは、お互いが離婚に納得している場合であっても、必ず裁判所で手続きを行わなければいけません。下記のように、離婚が成立するまでには、数ヶ月以上かかります。



          取り決め事項に合意している場合(無過失合意離婚)

離婚の取り決め事項に争いがある場合も、裁判所での手続きが必要となります。例えば、子どもの親権について争いがある場合や、財産分与について合意ができない場合には、下記のような流れになります。



           取り決め事項に争いがある場合(無過失争議離婚)

このように、アメリカで離婚するためには、裁判所での手続きが必要です。「紙切れ一枚で離婚できる」と思っている日本人にとっては、少しハードルが高いと感じるかもしれません。

(2)共同親権か単独親権か


日本では、「離婚して別々の道を歩むからには、父母のどちらかが責任を持って子どもを育てていくべきだ」という考え方が基本となっています。このため、離婚する際には、「今後どちらが子どもを育てていくか」を決めなくてはなりません。


このように、夫婦のどちらかが子どもを育てる権利のことを、「単独親権」と呼びます。


日本人同士が離婚する場合、母親が単独親権を持つケースがほとんどです。平成29(2017)年度の司法統計によると、離婚調停・審判で離婚した2万588件のうち、約90%のケースで母親が親権を獲得しています。


離婚後のイメージとしては、母親が子どもと一緒に暮らし、子どもに関する重要な事柄は全て母親が一人で決定します。


親権を持たない父親は、子どもの生活や教育方針について口出しをすることはできません。裁判所や母親の許可を取ることができれば、月に数回子どもと会ってお喋りをすることができます。このように父親と子どもが定期的に交流することを「面会交流」と呼びます。

それでは、アメリカで離婚する場合はどうでしょうか?


アメリカでは、「離婚後も子どもは両親双方の愛情を受け、2人で育てていく」という考え方が基本となっています。子どもに関する重要な事柄については、離婚後も全て2人で話し合って決めなくてはいけません。


離婚後の子育ては、「元夫婦が子育てを半分ずつ分担して行う」というイメージです。例えば、子どもが平日だけ片親の家で過ごし、週末はもう片親の家に泊まりにいく、という形を取っている家庭があります。その他にも、今週は平日を母親の家で過ごしたので、来週は平日を父親の家で過ごすというように、交互に平日の子育てを分担している家庭もあります。


夏休みや春休みなどの長期休暇は、母親と父親の家で半分ずつ過ごします。サンクスギビングは父親、クリスマスは母親、翌年は交代にするなど、子どもが父母双方と過ごす時間ができるだけ等しくなるように、様々な工夫を行います。 


このように、アメリカでは、離婚後も父母が協力して子育てを行います。父母が共同で子育てを行う権利のことを、「共同親権」と呼びます。

(3)子どもを連れて実家に帰ることができるか


日本の映画やドラマを見ていると、夫婦喧嘩の末に「実家に帰らせていただきます!」と言って、母親が子どもを連れて実家に帰るシーンを目にすることがあります。実際に、母親が置き手紙だけ残して子どもを連れて実家に帰るケースは珍しいことではありません。日本の場合は、離婚後に母親が親権を持つケースがほとんどであるため、母親が無断で実家に子どもを連れ帰ったとしても、表立って問題になることはありません。


しかし、アメリカでは、勝手に子どもを連れ出すことは「子の連れ去り」とみなされ犯罪として扱われます。実の母親であっても、父親の許可なしに子どもを連れ出すことは違法な行為です。


たとえ実家や知人の家に子どもを連れ出した場合であっても、誘拐罪として刑事訴追の対象となります。「アメリカの法律を知らなかった」という事情は、アメリカの警察には通用しません。「子どもを無断で連れ出した」という事実は、離婚の手続きを進める上でも不利に扱われます。裁判官からの印象も悪くなります。

日本で育った人の中には、このようなアメリカの事情を知らずに、「どうせ離婚するのだから子どもと一緒に日本に帰ってしまおう」と考えてしまう人もいます。結婚生活がつらい人の中には、「離婚が成立する前に一刻も早く日本に帰りたい」と考える人もいるでしょう。


しかし、無断で子どもを日本に連れて帰ってしまうと、アメリカでは犯罪として扱われ、ハーグ条約によって子どもをアメリカに連れ戻すように命じられるおそれがあります。その場合、かえって離婚の手続きが複雑化してしまいます。


もし「子どもを連れて日本に帰りたい」と思ったら、子どもを日本に連れて帰る前に、弁護士やJB lineなど外部機関に相談してください。


画像は外務省パンフレット[ハーグ条約ってなんだろう?]より抜粋

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/ha/page25_000835.html

1.  離婚を考えているが決断できない時

結婚生活がうまくいっていないと感じていても、今までの生活を変化させることは大変勇気がいる難しい決断です。また、相手が一方的に離婚を要求しても、自分の心の準備ができていないこともあります。そうしたときには、一般的にカウンセリングを勧められます。


カップルセラピー


- 離婚したいのかどうかわからないが、関係をできれば改善したい、と思っている。

 *家で二人で話すのが難しいとき。何か話し合おうとすると口論になってしまうような状態。

 夫婦の性生活がなく、冷戦状態が続いているとき。


- 離婚したい、とすでに片方が決めているとき

 *離婚に賛成していないパートナーのために、気持ちを伝えあう場を設け、関係に終止符を打てるようにする。

 

個人のセラピー


*カップルセラピーをすでに始めている場合は、セラピストが個人のセラピーが必要だろう、と判断した場合に勧める。

*離婚を決めているわけではないが、結婚生活に満足していないとき。

*自分自身の気分が憂鬱な場合、現在あるいは将来の生活に不安を感じている場合。あるいは、パートナーが鬱状態のようだったり、何かをひどく心配しているようにみえたりする。そのような場合、パートナーが同意していなくても、まずは自分だけでもセラピーを始めるとよいかもしれません。

 

ファミリーセラピー


両親と子ども(年齢にもよる)が考えや思いを伝えられる共有の場所になり、両親が双方で子育てしていく制度の下で、離婚は終わりでなく通過点であることを一緒に確認できる場となる可能性がある。

 

カウンセラーを探すには


1. JB line

http://www.jbline.org/yellowpage


2. Psychology Today

https://www.psychologytoday.com/us?tr=Hdr_Brand


あるいは具体的に弁護士に自分の離婚のケースを相談に行くことで、離婚に進むべき点と問題点が明確になってくる可能性があります。このため、まだ離婚を決断していない段階であっても、弁護士に相談してみることも選択肢の一つです。「離婚すると決めてから弁護士に相談しよう」と考えている人が多いかもしれませんが、一般的な弁護士であれば、離婚決断前の方からのご相談も受け付けています。例えば、「子どもが小学校を卒業する頃に離婚したいと思っていますが、それまでにどのような準備をしたら良いですか」と質問したり、「今すぐ離婚しようと思っているわけではないのですが、自分にはどのような選択肢がありますか」というように質問してみましょう。弁護士の探し方や協働については「3.1.1 弁護士またはメディエーターの手配」をご参照ください。

2. 離婚を決断

2.1  自分から離婚を決断した場合

✔️離婚に備えて準備をする

あれば便利な以下の書類を集めておく

など。


      居住先の州で離婚の申し立てができるかなど、離婚に関する州の法律を確認する


州によっては、居住歴が短い場合はその州で離婚の申し立てができないことがあります。また、離婚の種類も州によって違いがあります。

マサチューセッツ州で離婚するには、少なくとも夫婦のいずれかが州内に一年以上在住している必要があります。日本で結婚した夫婦または他州で結婚した夫婦でも、マサチューセッツ州内で一年以上住んでいれば離婚の申し立てができます。また一年以内でも、夫婦で州内に住み婚姻関係が終了する原因が州内で発生していれば、申し立てが可能です。


マサチューセッツの州の離婚に関するサイト

https://www.mass.gov/info-details/massachusetts-law-about-divorce


各州の離婚要件について

https://www.womenslaw.org/laws 


   離婚専門(Family Law、Matrimonial Law)の弁護士に相談する 


アメリカでは、離婚するにあたって、必ず裁判所を通す必要があります。離婚裁判に備え、親権・面会交流のアレンジ、資産の分け方、養育費(Child Support)や扶養手当(Alimony)額などを弁護士に相談して取り決めを行なっていきます。弁護士の見つけ方は、「3.1.1 弁護士またはメディエーターの手配」を参照してください。<li><a href="#h.zf53ob54b5fq.">お問い合わせ</a></li>


   ドメスティックバイオレンス(DV)などで、離婚までの間保護を必要とする場合 

   

管轄の領事館やJBLine(www.jbline.org)、ATASK(www.atask.org) などDV関連団体に相談してアドバイスを受けます。配偶者の同意なく子どもを連れて家を出た場合は誘拐したと取られる場合もあるので、どのように行動するかDV団体や弁護士に相談してからにしてください。身の危険がある場合・緊急時は警察に電話します。シェルターの手配などもDV関連団体に相談します。


海外在住日本人の相談窓口

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/ha/page22_001736.html


   裁判所へ書類を提出し、受理されたのち、召喚状が渡され、相手方に離婚申請書と召喚状の写しが送達されます。

✔️離婚後の生活設計を始める


現在の夫婦の収入のほか、資産や年金(401Kなど)の情報を集め、離婚後に必要な生活費を計算し、アリモニー(扶養料)や養育費がどれぐらい必要か検討しましょう。また、アリモニー(扶養料)や養育費が十分に支払われない可能性がある場合(計算方法は「3.1.2.1 扶養料」「3.1.2.2 養育費」を参照)には、就職の可能性や州から受けられる保護の内容(「2.4  離婚後の生活を考える」を参照)に関して調べ、離婚後の生活がスムーズに始められるように準備を始めましょう。

2.2  相手からの離婚申請が届いた場合

✔️ 既定の日程までに必ず返答する・弁護士を雇う

離婚通告が届いた場合、そのままにしておくと欠席裁判(Default)となり申立人の要求通りの判決が下りる可能性があります。指定された一定期間の間に、必ず受取書(Acknowlege of Service Form)を裁判所に提出してください。

英語や裁判に不安があり、相談したい場合は、JBLine(www.jbline.org)、ATASK(www.atask.org) 、AADA(https://www.aadainc.org/)などの支援団体に連絡をして無料のアドバイスを受けることができます。弁護士の見つけ方は、「3.1.1 弁護士またはメディエーターの手配」の章を参照してください。


✔️ 離婚が確定するまでの生活


生活費

離婚手続き中に、生活費が必要である場合、裁判所命令を取る事により養育費(Child Support)や扶養手当(Alimony)を要求することが可能ですので、弁護士に相談してください。


子どもや資産に関して


子どもがいる場合、離婚を申し立てた配偶者が子どもの引き取りを要求してきたとしても、裁判所の命令がない限り、子どもを引き渡す必要はありません。裁判所より面会交流の命令が出ればそれに従います。


離婚の申し立てが行われた際に、ほとんどの場合、子どもを他の配偶者の許可なしに州外に連れ出さない・デイケアや学校を変更させないなどの子どもに関する項目や、資産の運用・借金などを配偶者の許可なしにできないとする項目、配偶者に対する攻撃的な態度や言動を規制する項目等が記されたStanding Orderという書類が裁判所から送付されます。

住居


離婚手続き中は、現在住んでいる住居から引っ越す必要はありませんが、ドメスティック・バイオレンス(DV)があり身の危険を感じる場合は、弁護士やDVシェルターに相談し、保護を求めてください。配偶者に出て行ってもらうことを求めることもできます。弁護士に相談しましょう。


アメリカでは、​​父母のいずれもが親権(監護権)を有する場合に、一方の親が他方の親の同意を得ずに子どもを連れ去る行為は、犯罪(実子誘拐罪)とされています(​​米国連邦法Title 18, Chapter 55, Section 1204)*。このため、たとえ実の子どもであっても、他方の親の同意なく子どもを連れて家を出る場合は誘拐したと言われることもあるので、家を出る前に、まずは弁護士や支援団体にどういう行動を取るべきか相談してください。ただし、安全ではないと感じ急を要する場合は警察に行きます。そこから接近禁止令を裁判所で取ることになります。

 

✔️離婚後の生活設計を始める


現在の夫婦の収入のほか、資産や年金(401Kなど)の情報を集め、離婚後に必要な生活費を計算し、アリモニー(扶養料)や養育費がどれぐらい必要か検討しましょう。また、アリモニー(扶養料)や養育費が十分に支払われない可能性がある場合(計算方法は「3.1.2.1 扶養料」「3.1.2.2 養育費」を参照)には、就職の可能性や州から受けられる保護の内容(「2.4  離婚後の生活を考える」を参照)に関して調べ、離婚後の生活がスムーズに始められるように準備を始めましょう。


*ヒューストン領事館HPより引用

https://www.houston.us.emb-japan.go.jp/jp/info/2011/shinkenmondai_Tsuresari.htm

2.3  子供のケア

離婚をすすめるにあたって子どもにどう話すか


離婚にあたっては、家族全員が今までの問題を乗り越え、複数の家庭に分かれたとしても子どもたちにとって良い家庭環境を築いていくための前向きな努力が望まれます。裁判所から、親教育プログラムの受講を義務付けられる州もあります(マサチューセッツ州含む)。両者が話し合い離婚を決断した場合は、子どもの不安を取り除くために、できれば早い時期に両者がそろった子どもとの時間を準備し、「離婚は子どもが原因ではないこと」「離婚しても両親からの愛情は変わらないこと」「これからも親として協力していくこと」をしっかりと伝えましょう。そして、その場で離婚に対しての子どもの気持ちや意見に耳を傾けましょう。疑問に対しては率直に答えていきましょう。


このようにはできない場合も多いとは思いますが、相手の悪口を言ったり、子どもの処遇をめぐり親同士が争ったり、子どもの発言を利用したりすることは子どもの心を傷つけることになりかねませんので気を付けましょう。親以外の第三者で、子どもが正直に話せるカウンセラーなどを用意することも子どもの助けになります。子どもの感情や行動に変化が出てもそれは不思議ではありません。まずはその時その時の子どもの訴えにしっかりと耳を傾け受け止めていきましょう。子どもが親の離婚を受け止めるのには時間がかかります。焦らずに進んでいきましょう。

2.4  離婚後の生活を考える

2.4 離婚後の生活を考える

2.5 離婚のチェックリスト

2.5 離婚のチェックリスト.pdf

3.  離婚裁判

3.1 裁判準備

    3.1.1  離婚弁護士またはメディエーターの手配

3.1.1.1  離婚弁護士を決める際の注意点について

それぞれ夫婦のニーズに応じて適切な離婚弁護士を選ぶことはとても大切であり、離婚後の生活に大きく関わってきます。まず、離婚は共有財産、親権、結婚後の生活の保障について解決する法的な手続きだということを理解する必要があります。弁護士の仕事は、このプロセスであなたの法的な代行をすることです。


では、どのように弁護士を探したらよいでしょうか。


まずは、離婚の経験がある親族や親しい友人に尋ねてみるのがよいでしょう。ただ、事案ごとに裁判の進み方が異なるので、知人から聞いた話がそのまま自分に当てはまるとは限らないことを理解してください。知り合いに弁護士がいれば、家族法の弁護士を紹介してもらいましょう。また、医者やソーシャルワーカーなどの専門職、聖職者など地域で人脈の広い人がいれば尋ねてみるのもよいかも知れません。


個人的な紹介が得られない場合は、たとえば以下のような団体から紹介を貰うことも可能です。居住地の近くで婚姻法や家族法を専門とする弁護士を数名教えてもらうとよいでしょう。


The American Bar Association – Family Law Section (www.abanet.org)


こちらの名簿(ディレクトリー)に掲載されている弁護士はすべて家族法を専門とし、中には業務内容について具体的詳細を載せているものもあります。居住地や仕事場からの距離を元に検索できるようになっています。


Divorce Professionals Directory (www.divorcemag.com/directory)


以下二件のサイトには、州、扱い分野別に弁護士の略歴と格付けが記載されています。その弁護士が婚姻法や家族法を専門としているかを経歴から確認できます。


Martindale-Hubbell (www.martindale.com)

Avvo (www.avvo.com)



✔️弁護士を決める際の留意点について


 婚姻法(Matrimonial Law)または家族法(Family Law)を専門分野としていること


  あなた自身の離婚案件と似通ったケースを多く手がけた経験のある弁護士を選ぶ


  交渉に長けている弁護士を選ぶことにより、法廷において長期にわたり争うことを回避でき、結果的に労力、金銭の節約となる


良識のある弁護士は、相手方の申し出が公正で受け入れられる内容であるかについて適切にアドバイスをくれ、個人的な恨みを晴らすために戦い続けるよう仕向けることはしない


弁護士には、あなたの非常に個人的な情報を開示する必要があり、そうできない場合は結果的に離婚で不利な立場に置かれる可能性も大いにありえる。どのようなことでも正直に、気兼ねなく話せると感じられる弁護士を探す


すべてに率直な対応をしてくれる弁護士を選ぶ。離婚に一体どのくらい費用がかかるのか、あなたの問題について裁判官が果たしてどのような判断を下すか、案件に抜け落ちや問題点があるか、あなたの方に有利な点があるかどうかなど、忌憚のない意見を聞けることが大事


あなたの配偶者と同じ弁護士を共有することはできない。また、配偶者の友人、配偶者の仕事上関わりのある弁護士、配偶者の親戚家族から弁護士を選ぶことはできない。自分の仕事関係や親戚の弁護士を選ぶことはできるが、利害が対立したり、人間関係が悪化したりすることがある


離婚に関連する分野の専門家、例えば法廷会計士,ビジネス査定官(Business Valuator),セラピストなどと協働経験があり、必要に応じてこれらの専門家を紹介できること


✔️まずは実際に会ってみていくつかの質問をしてみましょう



✔️弁護士と初回の面会に準備していくもの


夫婦の財政に関する書類、特に所得税申告書(tax return)などを用意していきましょう。(詳細は「2.1  自分から離婚を決断した場合」を参照)弁護士が、あなたの案件についておおよその理解をするのに必要となります。

3.1.1.2 弁護士費用について

弁護士にアメリカの離婚について依頼する場合は、費用がかかります。双方が離婚内容に同意し、裁判所にファイルするだけの場合は数千ドルで済みますが、離婚内容について話し合いによって決めていく必要がある場合、また状況に応じて訴訟が考えられる場合は、より高額になります。まず、この離婚で得たいと考えていることを弁護士に話してみましょう。弁護士が勧める方向性によってどれくらいの費用が掛かると考えられるのか、相談の中で弁護士から提示されるでしょう。


アメリカの離婚で弁護士にお願いする場合、支払い金額の内容や計算方法については、契約書に細かい記載がありますので、必ず確認してください。契約にあたっては、不明な点をできる限り明確にし、また自身が希望している予算についても弁護士に伝えるようにしましょう。ただし、得たいと考えている結果と、必要な時間数が合わない場合は予算の枠にはめることは難しくなります。予算が何よりも優先される場合はそれを伝えます。また、自分の経済状況によっては(案件によっては)弁護士費用を相手方に請求できる場合があります。合わせて弁護士に確認してみましょう。


離婚案件の場合、弁護士費用については一般的に以下の通り算出されます。


✔️弁護士費用の算出方法


離婚案件の場合、弁護士に支払う費用は一般的に「弁護士の時間給×対応に必要な時間」により算出されます。対応に必要な時間には、一般的に裁判所出廷時間、書類作成時間だけでなく、移動時間や相談者へのメール・電話対応時間等も含まれます。基本的に、案件が複雑であったり、合意に至るのが難しい項目がある場合には、対応時間がそれだけ長くなるので、費用が高額になる傾向があります。

また、課金の計上は、端数切り上げがあることが多いので、電話やメール等で弁護士に質問する場合、本当に必要な質問なのか、あとでまとめて確認できないか考えてから質問したほうが費用を節約できる場合があります。

例)相談15分$20の場合、5分だけ相談しても$20など。


✔️マサチューセッツ州の弁護士費用について


マサチューセッツ州において、離婚案件を弁護士に依頼する場合、少なくとも総額数千ドル必要になります。以下のサイトでは、マサチューセッツ州での典型的な離婚の費用の総額を$10,600 - $12,800と計算しています。詳しくは、以下のサイトをご確認ください。


参考:Lawyer.com

https://www.lawyers.com/legal-info/family-law/divorce/how-much-does-divorce-cost-in-massachusetts.html


✔️支払いの流れ


最初に本件に必要と思われる対応時間が見積もられますので、それをもとにリテイナー(前払金)を弁護士事務所に支払います。その後、実際に弁護士が出廷、書類作成、メール・電話回答等の対応を行うと、時間給を元に費用が算出され、リテイナーから順次差し引かれます。リテイナーを使い切ると、残りの予測時間に基づいて、次のリテイナーを支払うよう指示があります。毎月いくらを何に使用したかは、弁護士にリクエストすればクライアントに書面で送られます。

  

全く所持金がなく、DVなどがあり、複雑な離婚でない場合は、裁判所に付属のDV相談室の弁護士などが無料で離婚同意書を書いてくれる場合もあります。こうした事情のある場合はJB Lineのソーシャルワーカーまでご相談ください。

3.1.1.3 メディエーターを決める際の注意点について

お互いに話し合いで円満に解決をしたいとの希望があり、両者のコミュニケーションに問題がない場合は、弁護士を雇う前にメディエーター(仲介人・mediator)に離婚条件の調整を依頼するという方法があります。メディエーターの場合、双方の合意をまとめることに焦点をおいているため、手続きも迅速に進むという利点があります。


米国のメディエーション(離婚仲介・mediation)は、日本の離婚調停とは若干違い、メディエーターを手配するのは当事者となり、夫・妻双方の話し合いに対して1人だけが担当します。メディエーターは弁護士であることが多いですが、他にソーシャルワーカーや臨床心理士などの様々な職業の人々がメディエーターとなっている場合もあります。メディエーターが弁護士の場合は、当然ですが法律に明るく、心理専門家の場合は当事者間の心の葛藤により焦点を当てることができる、などそれぞれの強みがあります。


メディエーターはあくまで中立で、一方のためだけに働くことはありません。また、当事者一方だけのためにアドバイスをすることはできません。弁護士が自分の主張・権利の代弁者であるのに対し、メディエーターは双方の間で話し合いや交渉を促し、当事者同士が自ら最終的合意に至るように導いてくれる仲介者です。双方に弁護士を持ちながら、メディエーターを間に入れて話を進めていくということもよくあります。


メディエーターには夫・妻双方の意見を平等に聞いてもらうことができるので、それにより当事者自ら決定し、合意に至ることができます。同意できないところを話し合いながら、気になる様々な点について妥協点を探っていきます。このような過程を踏まえて合意に至るため、お互いの関係が悪化することもなく、離婚後も長く協力関係を保つことができる可能性が高いと言われています。また、公的な記録が何も残らないため、自分が発言した内容で後に拘束力が生じることを心配せずに、リラックスして臨めるという意見もあります。


✔️メディエーターを決める際の留意点


家族法(Family Law)に基づいた当事者の権利や責任を十分に説明し、双方がその理解に基づき自ら決定し、合意に至るよう話し合いを進めてくれる


中立の立場から、当事者双方の、またその家族全員にとっての最善を考慮した仲介を行う


メディエーターのトレーニングを受けて、その職に専念した人を選ぶ。たとえば訴訟弁護士との兼任の場合、不向きの場合もありうる


当事者の状況によっては、投資資産、税など複雑なファイナンスの問題について精通しているメディエーターが必要な場合もある


養育や親権についての問題では、セラピストの資格を持つメディエーターを利用するほうが、弁護士資格を持つメディエーターより、子どもや家族全体にとって配慮のある健全な解決方法が期待できる場合もある


双方の感情的な問題がスムーズな解決の障害になる場合は、メディエーターは当事者にセラピストや離婚コーチの利用を勧めることもある


最初に連絡をとったときの印象から、誠意があり親身になって働いてくれそうな人、相性の合いそうな人を選ぶ


メディエーション料金のガイドラインについては、「用語集」を参照のこと。相談の回数については、案件の複雑さによっても違うが2回から6回くらい必要となる場合が多い


弁護士資格を持つメディエーターの場合は、離婚合意書(Divorce Agreement)の作成を頼むこともできる

3.1.1.4  リーガルエイド・プロボノ弁護士の見つけ方・働き方

リーガルエイドやリーガルサービスは、弁護士を雇う経済的余裕のない人のために公的機関や民間団体が行う法的支援で、無料もしくは安価で利用することができます。多くは民事事件(但し、離婚、破産、人身傷害問題などを除く)を扱い、刑事事件は引き受けません。一般的に、賃貸借、消費者、福祉、その他低所得者が直面する問題を取り扱うことが多いです。上記の通り、離婚は取り扱わないリーガルエイド・リーガルサービスは多いですが、中には離婚のケースを請け負っている団体もあります。なお、原告・被告どちらの立場からの依頼でも、弁護を請け負うことが一般的です。

プロボノ(Pro Bono)とは無料で働く専門家のことを指すラテン語です。すべての弁護士が一定時間、法へのアクセスが得られない人のために働くことをプロボノ活動として推奨されていますので、そうした弁護士が無報酬で働いてくれる場合があります。

リーガルエイドやプロボノ弁護士の見つけ方は、インターネットの検索エンジンに「州や市の名前」と「Legal Service」あるいは「Pro Bono」と入れて検索をします。見つかった団体のウエブサイトの指示に従って、サイトに入力したり電話をかけたりします。

あるいはPro Bono Resource Directoryを検索してみる、お住いの州あるいは州のBar Association(弁護士協会)に連絡をしてみる、また州の弁護士ライセンスを統括している組織に連絡をしてみる、あるいは法学部のある大学や地元の裁判所へ連絡してみる、プロボノを提供している地元の教会や宗教組織に連絡するなども有効です。

(参考:https://www.probono.net/oppsguide/


過去にリーガルエイドやプロボノを見つけられた方々のケースとして



プロボノ弁護団体

Volunteer Lawyers Project of the Boston Bar Association  (617) 423-0648 

Greater Boston Legal Services (617) 603-2700

Community Legal Services and Counseling Center (617) 661-1010

Harvard Legal Aid Bureau (617) 495-4408

The WilmerHale Legal Services Center (617) 522-3003

https://www.justia.com/lawyers/family-law/massachusetts/legal-aid-and-pro-bono-services


プロボノ弁護士を利用するにあたっての年収の上限

https://www.americanbar.org/groups/legal_services/flh-home/flh-faq/

3.1.1.5  離婚弁護士との協働の仕方

どれほど高名で高価な弁護士を雇ったとしても、必ず良い結果を得られるとは限りません。お互い人間同士なので良い関係を築き協働することが大切です。どのようなことが必要か少し挙げてみましょう:

弁護士に隠し事をしない・嘘をつかない:人には色々とオープンにしたくないことがあるのは当たり前です。しかし弁護士は守秘義務がありますし、すべてのことを開示しないと、ものごとを進めるのは難しく、また不信感にも通じます。最初から全部言うことが大事です。弁護士に言いたくないことがあっても、最初から全部正直に伝えておきましょう。「この弁護士のことを信頼できるかどうか分からないから、今の段階では言わないでおこう」と思って隠しごとをすると、後でそのことが発覚したときに、信頼関係が崩壊してしまいます。


       (ケース1)

Aさんは、日本にある自分の預貯金を、弁護士に言わずに隠していました。離婚後の生活資金にしようと思っていたからです。しかしお金がないはずのAさんが、いよいよという時にはどこからかお金を工面してくることから、弁護士は何か変だと感じ始めます。その時点で弁護士に尋ねられ、Aさんは預貯金のことを伝えます。弁護士はAさんの発言への信頼が損なわれ、良い関係性が作れないと契約を打ち切り、裁判所も新たに出された財産情報を見てAさんの証言の信頼性に疑問を持ちます。


      (ケース2)

Bさんは良いと言われる弁護士を雇ったものの、弁護士に依頼することは初めてです。どうしても一つ一つの支払いが高く思え、不安に感じてしまいます。しかし日本人としてお金についてあまりオープンに話し合うこともはばかられます。一方、アメリカ人の弁護士は何がBさんを押しとどめているのかわからずお互いに信頼しきれない気持ちが続いています。


期待する結果に柔軟性を持ちましょう:誰しも離婚に際して「ここだけは譲れない」というところがあるでしょう。しかし弁護士は何百・何千のケースを経験し、大きな枠組みとアメリカの裁判制度、そして裁判官を熟知していることがほとんどです。自分の離婚をお願いする際には、その弁護士の経験からくる判断も信用できると良いと思います。


(ケース3)

Cさんは弁護士を雇って離婚に臨んでいます。彼女の希望は、子どもを面会交流で夫のところに泊まらせたくないことです。しかし児童福祉局も裁判所も、子どもが父親のところに泊まることを勧めています。弁護士は、「そこは受け入れ、逆に子どもたちが家にいる日数を増やそう」と勧めますが、どうしてもCさんは受け入れることができません。そのため、和解のための話し合いは硬直し、長期化し費用もかかり、このままでは訴訟に進んでしまいそうです。


大事な書類は保管して、整理しておくこと:離婚の裁判で、本人にとっても弁護士にとっても一番大変なことは「正しい情報」を出すということでしょう。まさかこんな時に必要になるとは思わず、記録もないことに対して、「日付は」「何か証拠は」と言われると、それでなくても気の重い裁判がますますストレスになると思います。しかし、情報が正しくなくどこかで齟齬が出ると、あなたの言っていることの信ぴょう性が崩れてしまいます。また、あなたが例え真実を述べていたとしても、そのことを証明する証拠が無ければ、裁判では「無かったもの」として扱われます。このため、大事な書類をファイルにまとめておくこと、離婚に関わる写真やメールを保存しておくことは、とても重要なことです。これは必要ないだろうと思うものでも、念のため保存しておくと、思わぬところで役立つこともあります。周りの人の助けを借りるなどして頑張りましょう。


(ケース4)

Dさんは整理整頓が何より苦手です。税金やすべてのお金のことは夫がやっていました。離婚をすることになって何が必要なのかさっぱりわからず、弁護士に出せ出せと言われて何度諦めそうになったかわかりません。思い切って離婚経験者の友人たちにサポートをお願いしたところ、「こうしたら情報が探せるよ」「書類整理は得意だから手伝ってあげるよ」などの手が差し出されました。また夫の知り合いや親戚で離婚を応援してくれる人も、色々な情報を出してくれるようになりました。


離婚裁判の目的を知る:アメリカでの離婚裁判の目的は、共同財産の分与と親権について取り決めることです。相手が間違っていることを裁判で伝えようとすると、自分にとって不利に働きます。なぜなら裁判所は「離婚後も両方の親が協力し合って子ども(たち)を育てていけること」を目指しているからです。敵対した気持ちはあってもそれをそのまま出しては、「協力しない親」と思われることもあります。また相手に非を認めさせることに固執してしまうと、裁判が長引いてしまい、それだけ弁護士費用が高額になるデメリットもあります。


   (ケース5)

Eさんは別れる夫のことが許せません。あちこちで彼の悪口をいい、メールへの返事も相手への非難ばかりです。相手の留守電にもたくさんの怒りの言葉やFワードを残していました。そうでもしなければやりきれなかったのです。しかし、相手の側から「人に対してリスペクトできない母親」を証明するものとして、それらがすべて裁判所に提出されました。こうしたところが裁判に不利になると弁護士から言われていましたが、まさか本当とは思いませんでした。

    3.1.2  取り決め事項の話し合い

3.1.2.1 扶養料

アリモニー(Alimony:扶養料)*とは離婚後一定期間、一方の当事者が他方の生活費をサポートするために支払うものです。

*日本では「扶養料」は扶養義務があるものに対する支払い、特に親が子に対して支払うもので、アリモニーとは異なります。


離婚プロセスの中でアリモニーの支払いを請求することができます(別のプロセスではありません)。離婚判決にアリモニーについての記載がなかった場合には、離婚後に不服を申し立てることもできます。


アリモニーの金額は以下の要素を考慮して決定されます。



アリモニーには以下の4つの種類があります。



一般アリモニーについては通常、婚姻期間により支払い期間が決定されます。



アリモニーの額は、アリモニーを受け取る側が必要とする額、または命令が出される時点での両当事者の総収入の差の30〜35%を超えないものとされます。


   以下の場合にはアリモニーの支払は終了します。



アリモニーについての決定後、状況に大きな変更があったなど、相当な理由がある場合、裁判官がより長期のアリモニーの支払を命じることもあります。アリモニーの支払期間・金額について不服申し立てをすることができます。

3.1.2.2 養育費

離婚後も両親には子どもを養育する義務があり、主要な居住/身上監護権(Primary Residential/Physical Custody)をもたない親(つまり、子どもと住む時間が短い親)は他方の親に養育費(Child Support)を支払います。

*親権には法的親権(Legal Custody) と 居住/身上監護権(Residential/Physical Custody )の2種類があり、法的親権は子どもについて決断をする権利、居住/身上監護権は子どもと一緒に住む権利です。


養育にかかる金額の負担割合は両親の収入額に基づいて計算されます。例えば、両親の月収がそれぞれ$7,000、$3,000だった場合、扶養にかかる金額を7:3で分担することとなりますが、主要な身上監護権をもつ親は子どもと同居しているために必要な金額を直接子どもに対して使っており、その分を差し引きする結果、養育費の支払義務が生じません。


養育費計算のための収入額には以下のものなどあらゆる形態の収入が含まれます。




養育費の支払いを避けるために、わざと失業したり仕事を減らしたりして過去より収入額を下げても、裁判官が計算のための収入額を引き上げることができますので、養育費の支払いを避けることはできません。


原則として、主要な身上監護権をもつ親のところで子どもが2/3の時間を過ごし、もう一本の親のところで残りの1/3を過ごすものとして養育費は計算されますが、それぞれの所で過ごす時間の割合によって調整されます。


養育にかかる費用は住居費、食費等のほか、健康保険、教育費(場合によっては私立の学校やサマーキャンプの費用も含む)などを含みます。


養育費の計算結果に不服な場合は調整を申し立てることができます。以下の理由などにより、裁判所は調整が必要か判断します。



養育費の決定後3年が経過後、以下の理由により変更される場合があります。



養育費の支払いが滞った場合などは、Massachusetts Child Support Division(https://www.mass.gov/orgs/child-support-enforcement-division)で養育費の執行や変更に関する援助を受けることができます。

3.1.2.3 財産分与

離婚によって夫婦関係が終了する場合、夫婦間で財産を分けることになります。

マサチューセッツ州を含むニューイングランドの州はすべて「公平分配ルール(Equitable Distribution Rule)」を採用しています。「等しく(equal)」分けるのではなく、「公平・公正(equitable)」に分けるという考え方です。(一部の州ではすべての財産を半分ずつ分ける「共有財産ルール(Community Property Rule)」を採用しています。)

夫婦間で合意ができる場合は、どのような形で財産を分割してもかまいませんが、あまりにも不公平な分配の場合は裁判所が介入する可能性があります。

合意できないまま訴訟になった場合は、最終的に裁判所の判断を仰ぐことになり、裁判所は夫婦の一方が婚姻前から所有していた、または婚姻中に贈与/相続を受けて得た「個別財産(Separate Property)」と、婚姻中に夫婦が得た「婚姻財産(Marital Property)」の両方について分与を決定します。

まずはすべての財産について「個別財産」か「婚姻財産」かの判定が行われます。

マサチューセッツ州では離婚する場合、「財産証明書(Financial Statements)」の提出が義務付けられており、これにより双方の財産状況を明らかにします。

※    財産証明書に虚偽の記入をした場合、罰金や懲役などの刑罰が課されることがあります。(故意に虚偽の記載を行った場合だけでなく、過失であっても刑罰の対象となる場合があります。)また、財産分割の決定において不利となる(相手方に多く分割される)可能性もあります。金額が大きな場合は偽証罪が適用されることもあります。

※    海外に資産がある場合も含める必要があります。海外の不動産は現地の法律に従って処理され、その他の資産(金融口座やその他の個人財産)については離婚を申請する場所の法律に従うことが多いようです。海外資産額の評価は難しい場合があります。

※    すべての財産状況を明らかにするのは大変な作業です。離婚を考え始めたら早めに書類(納税申告書、ローン申請書、銀行等の口座情報など)を揃えておきましょう。

※    相手方が正直に申告していないと思われる場合は弁護士に相談しましょう。

すべての財産が明らかになったところで、「個別財産」か「婚姻財産」かの判定が行われます。

「個別財産」についてはそれぞれが自分の個別財産を取得します。

「婚姻財産」については裁判所が以下の要素などを考慮し、公平の観点から分配を決定します。



婚姻中の状況に近くなる形で決定されることが多いですが、必ずそうなるというわけではありません。婚姻期間が長ければ、ある程度同等に分けられる可能性が高くなりますが、あくまでケースバイケースです。

配偶者の不正行為とは、特に婚姻財産の浪費や消失につながった行為で、例えばギャンブルや他方の配偶者の同意なく他者に贈るなどの行為がこれに当たります。

分配の方法は①各財産を一方に割り当てる、②財産を売って得たお金を分ける、③共同所有する、の3つがあります。③は稀ですが、子どもが成長するまで家をそのままにしておく、投資が増えるまでもっておく、などの場合があります。

3.1.2.4 親権・面会交流

米国において、離婚後の親権は州の法律で規定されています。親権は、その子どもの最善の利益に基づいて決められます。米国では1979年のカリフォルニア州を皮切りに、離婚した親の双方に親権が与えられる共同親権の考え方が一般的になっています。両方の親と触れあい成長することが、子どもの情緒教育にとって必要で「子どもの利益になる」と考えられています。

この共同親権には2つの要素がありますが、州によって親権・監護権の定義・内容は異なります。マサチューセッツ州では一般的に以下の用語が使われています。


法的共同親権:  子どもの教育、医療、生活、宗教などについて、両親は協力して共通の決定を下します。合意できない場合は裁判所が介入し決定する場合もあります。


物理的共同親権(監護権): 子どもがそれぞれの両親とどれだけの時間を過ごすかを決めます。



一方で、一般的ではないですが「単独親権」を持つ親と、面会交流権を持つ親という場合もあります。ほとんどの時間を一人の親と過ごし、面会交流の時間をもう一方の親と過ごすという考え方です。また親が子どもを虐待していた場合や、犯罪、重大な精神疾患がある場合などは「裁判所の監督下」で面会交流時間がもたれることもあります。

親権の決定は、合意によって決められ離婚同意書に記載されます。合意に至らない場合は様々な条件が加味されます。どちらの親が主に世話をしているか(特に子どもが小さい場合)、両親のうちどちらに子どもがより密接なつながりを感じているか、子どもの福祉にとってどの形が良いかなど。また一旦決められた親権の変更も可能です。ただし、状況が変化したことと子どもの最善の利益であることを証明しなければなりません。

共同親権が全く平等には手配されておらず、離婚同意書の中で、片方の親が「主たる親権(プライマリー)を持つ」と書かれている場合や、「細かい点で合意に至らない場合は片方の親の決定に従う」などと書かれている場合があります。同意書に署名する前にしっかり確認することが必要です。

面会交流と養育費は関係がありません。養育費を払っていれば自動的に子どもに会えるというわけではありません。また反対に養育費を払っていないからといって、子どもと会う権利が妨げられるということもありません。親と会うことが子どもの情緒的発達に大事だと考えられています。

3.1.2.5 ハーグ条約とは

ハーグ条約は、国境を越えた子どもの不法な連れ去りによって生ずる様々な子どもへの悪影響から子どもを守ることを目的に、原則として元の居住国に迅速に返還するための国際協力の仕組み・国境を越えた親子の面会交流実現のための協力について定めている条約です。日本では2014年4月1日に発効しました。


ハーグ条約では、まず原則として子どもをもともと居住していた国に返還することを義務付けています。片方の親の許可なしに国境を越え、子どもを連れ去ることは子どもの利益に反することである、また子どもの養育については子どもの元の居住国の司法機関で判断されるべきであるという考えに基づいています。


2つ目の原則として、両方の親と継続的な交流を持ち続けることは、子どもにとって利益になるという考えから、ハーグ条約の締結国は子どもが両親と交流を得られるように支援することが定められています。


ハーグ条約はその前文に「子どもの最善の利益」の重要性について記しているように、子どもの幸せを第一と考える条約です。子どもはそれぞれの親と人としての交流・関係を継続的に持ち続ける権利があること、そして子どもを不法に他国に連れ去ることは子どもの権利を損ねる可能性があることと指摘しています


文化差などを考慮した上で国際間のルールを定めることは大切なことです。また子どもの利益のために、親権に関する協議が夫婦間で行われることも大切です。しかし、こうした協議は夫婦間に対等な関係性があってこそ実現することができます。夫婦間にドメスティックバイオレンスの問題がある場合や、経済的な問題や言葉の問題から対等な協議が難しい場合がありましたら、まず家族法に詳しい弁護士やJB Line等の相談窓口に相談されることをお勧めします。


また、ハーグ条約は日本人同士の夫婦にも適用されます。

3.2 離婚方式の決定

3.2.1 どちらかの配偶者が離婚原因を作った場合(Fault Divorce)

マサチューセッツ州では、州法(M.G.L. c.207§1, 2)に列挙されている離婚原因(不倫、家庭放棄、重大な確認済みドラッグ依存症、残酷な虐待、サポートの欠如、性的不全、5年以上の実刑判決)を主張し、離婚を申し立てることができます。この場合、申し立てる側がその原因を証明しなければならず、裁判官が離婚原因なしと判断した場合、離婚は認められません。これらの離婚原因に基づく離婚は手続きが煩雑で時間もかかることから、多くの場合、無過失離婚(no-fault divorce) の方式で離婚申請されます。 

3.2.2 婚姻関係が修復不可能な場合(どちらも離婚理由を主張しない場合)

無過失(No-fault)で離婚することに夫婦間で合意があるとしても、離婚に至る前に最低限決めなければいけないいくつかの取り決め事項があります。

まず、18歳未満の子どもがいる場合は、子どもの親権、面会交流、養育費について合意する必要があります。

さらに、子どもの有無にかかわらず、財産分与、アリモニーについても取り決めなければいけません。

これらについては、当事者間だけで話し合って取り決めることもできますが、不利な条件での離婚にならないよう、専門知識を持った弁護士やメディエーターに依頼することをお勧めします。

離婚申請するまでにこれらの事項すべてに合意できている場合、合意内容を文書にし(別離合意書)、両人が署名し公証(nortarize)してもらったものを、離婚共同申請書(Joint Petition for Divorce)  (CJD-101A)、その他の書類(結婚証明書、婚姻関係が修復不可能であるという宣誓書等)と合わせて管轄の裁判所に提出し、離婚を申し立てます。(1A Divorce

夫婦の一方あるいは両方が、婚姻関係が破綻しているとして離婚を希望しているけれども、取り決め事項のすべてに合意できない場合、離婚を申請する者が、マサチューセッツ州法101B条による離婚の申し立て(Complaint for Divorce under §101B) (CJD-101B)、その他書類(結婚証明書等)を管轄の裁判所に提出して、離婚の申し立てを行います。(1B Divorce

3.2.3 管轄について

マサチューセッツ州で離婚するには、少なくとも夫婦のどちらかが州内に1年以上住んでいるか、夫婦で州内に住み婚姻関係が終了する原因が州内で発生していなくてはいけません。日本で結婚した日本人夫婦でも、他州で結婚した夫婦でも、これらの条件を満たしていればマサチューセッツ州で離婚の申し立てができます。具体的には、基本的に居住する郡(county)の遺言検認・家庭裁判所(Probate and Family Court)に離婚を申請します。

https://www.mass.gov/orgs/probate-and-family-court/locations?_page=1

3.3 裁判

3.3.1 取り決め事項に争いがある場合(無過失争議離婚)

1B Divorce:取り決め事項に争いがある場合(無過失争議離婚)

裁判所が離婚申し立てに必要な書類を受理すると、召喚状(Summons)が渡されるので、相手方に離婚申請書と召喚状の写しを送達します。召喚状を受け取った方は、一定の期間内(20日以内)に答弁書(Answer to Complaint for Divorce)を作成し、申立人に届け、答弁書と送達証明を裁判所に提出します。答弁書を提出しなかった場合、申立人の要求通りの判決が下りる可能性があります。(離婚を申し立てられた場合、答弁書を提出することは、自分の主張をするための重要な プロセスです)

答弁書が提出されると、財産証明書(Financial Statements)を交換して財産状況を開示し、別離合意書をまとめる必要がありますが、合意できない事項がある場合、裁判官によるヒアリングが行われます。裁判官によるヒアリングは通常離婚の申し立てから最低6か月を経た後にスケジュールされますが、その間に証拠開示手続き(Discovery)や、審理の準備手続き(Pre-trial Conference)等が行われ争点を明確にします。ヒアリングまでに合意に至った場合は、合意内容を別離合意書にまとめて署名し、他の必要書類とともに裁判所に提出することができます(1A Divorce 無過失合意離婚に移行)。ヒアリングにおいても合意できない場合は裁判となり、裁判官が最終的な判断を下すことになります。離婚が正式に成立するのは、裁判官による離婚仮判決(Judgement nisi:ジャッジメント・ナイサイ)から90日の待機期間(nisi 期間:ナイサイ期間)※を経た後になります。

※  ナイサイ期間(nisi期間)

ナイサイ期間とは、裁判官が離婚を認める仮判決を下してから判決が有効になるまでの待機期間のことを言います。これは、当事者が離婚について考え直す機会を与えたり、相手方が嘘の証言をしなかったか等を確認するために設けられています。この期間中は特に何もアクションをする必要がありませんが、再婚はできません。


マサチューセッツ州以外の離婚に関する法律や手続きについては、下記リンクを参照してください。

https://www.womenslaw.org/laws

3.3.2 取り決め事項に合意している場合(無過失合意離婚)

1A Divorce:取り決め事項に合意している場合(無過失合意離婚)

離婚の申し立てに必要な書類をすべて作成したら、書類の提出により離婚の申し立てを行います。申し立て当日に、そのままWalk-inで双方が出廷し裁判官の前でヒアリングを受ける場合と、申し立て時に裁判所が決定したヒアリングの日時にヒアリングを受ける場合があります(通常、ヒアリング日は申し立て日から数週間後)。ヒアリングには、基本的に両当事者が出廷する必要があります。申し立て(Petition)ヒアリングで、裁判官が「婚姻関係の回復しがたい破綻(Irretrievable breakdown of marriage)」があると認め、別離合意書の内容を確認すると、30日後に自動的に離婚仮判決が下り、判決から90日のナイサイ期間(nisi 期間)※を経て正式に離婚が成立します。

※  ナイサイ期間

ナイサイ期間とは、裁判官が離婚を認める仮判決を下してから判決が有効になるまでの待機期間のことを言います。これは、当事者が離婚について考え直す機会を与えたり、相手方が嘘の証言をしなかったか等を確認するために設けられています。この期間中は特に何もアクションをする必要がありませんが、再婚はできません。

マサチューセッツ州以外の離婚に関する法律や手続きについては、下記リンクを参照してください。

https://www.womenslaw.org/laws

4. 全ての事項に合意できた後、離婚合意書の作成、裁判所へ提出

取り決め事項に合意し無過失合意離婚(マサチューセッツ州では1A Divorce)になった時点で、書類を裁判所クラークに直接提出するか、郵送で提出します。

別離合意書は自分たちでも作ることができますが、一般的には弁護士やメディエーター(仲介者)に作成してもらい、双方が署名し、公証人の手続きを経て、他の必要書類と共に裁判所に提出します。別離合意書には財産の分割、親権、養育費、アリモニー(扶養手当)、子供の面会訪問など離婚に関わる細かい取り決めがすべて書かれています。

マサチューセッツ州では決定された別離/離婚合意書を別離婚判決 (judgment of divorce) 後にも修正できる場合 ("merge")と、 別離/離婚合意書(Separation/Divorce Agreement)の変更については原則としてできない場合 ("survive") があります。どちらにするかは、離婚合意書を作成するときに決めますが、しかるべき理由があれば、surviveの場合も修正可能のようです。


無過失合意離婚(1A)必要書類:


以下は、18才以下の子供がいる場合に必要


ヒアリング➡︎離婚仮判決➡︎ナイサイ期間➡︎離婚と進みます。

合意に至らなかった場合は裁判となり、裁判官による離婚仮判決➡︎ナイサイ期間➡︎離婚となります。

5. 離婚確定

5.1 離婚確定後にすべきこと

ナイサイ期間が過ぎると、裁判所に離婚判決謄本(Certificate of Divorce Absolute)の発行を請求できます。(裁判所から自動的に送られてくるわけではありません。)発行を請求する際には、所定の様式(Request for copies form (PFC 18))に必要事項を記入し、離婚判決が出た裁判所に規定の手数料とともに持参するか、郵送してください。

日本国籍を有する当事者(離婚申立て者:原告)は、離婚が成立すると、離婚が確定した日から3ヵ月以内に居住地を管轄する領事館に離婚を届け出ることとされています。この際、離婚届、戸籍謄本、離婚判決謄本及び確定証明書とその和訳を提出する必要があります。離婚申立て者が10日以内に離婚の届け出をしなかった場合、離婚を申立てられた者(被告)が離婚を届け出ることができます。

また、外国人との婚姻で氏を変更し配偶者の氏を称していた方が、離婚後に婚姻前の氏に変更したい場合、離婚の日から3か月以内に氏の変更届を提出することで旧姓に変更することができます。3ヵ月を過ぎると届け出は受け付けられず、日本の家庭裁判所での変更手続きが必要になるので注意が必要です。

参考:在ボストン日本国総領事館/領事情報/戸籍の届出


マサチューセッツ州以外の離婚に関する法律や手続きについては、下記リンクを参照してください。

https://www.womenslaw.org/laws

5.2 離婚確定後に気をつけること

無事にナイサイ期間が経過し、離婚が確定した場合に、何か気を付けることがあるでしょうか。また、離婚時の合意内容を相手が守ってくれない場合、どのように対応したらよいでしょうか。


離婚後に気を付けること





①子どもをつれたアメリカ国内の旅行・転居

マサチューセッツ州では、離婚時の取り決めなしに、若しくはもう一方の親の同意なしに、未成年の子どもを州外に連れ出すことは禁じられています。また、上記行為はマサチューセッツ州を含むニューイングランドの各州法において犯罪とされ、刑事訴追の恐れもあります。長期旅行や転居等、子供を州外に連れ出す際は注意しましょう。


②子どもを連れた国際的な旅行・転居

離婚時の取り決め内容に従って、子供をアメリカ国外に連れ出すことは問題ありません。しかし、取り決め内容となっていないにもかかわらず、未成年の子どもをアメリカ国外に連れ出した場合、もう一方の親の申立てがあれば、ハーグ条約によって子どもが元々居住していた国に連れ戻される可能性があります。また、アメリカ連邦法において、国際的な子どもの連れ去りは犯罪とされており、刑事訴追の恐れもあります。日本への帰国の際には十分注意しましょう。相手の同意があっても聞かれた時に相手の同意を証明できるもの(メールのコピーや書面など)を携帯しましょう。



①アリモニーの変更

アリモニーを支払う側の支払い能力について「重要な」変化があった場合、もしくはアリモニーを受け取る側の扶養の必要性について「重要な」変化があった場合に、アリモニーの変更が認められます。

手続の詳細については、こちらをご確認ください。

What you need - for Request to change your alimony


②養育費の変更

双方の親が養育費の変更に同意している場合であっても、裁判所への提出が必要です。手続の詳細については、こちらをご確認ください。 


双方の親が同意していない場合:File to change your child support if only one person wants the change

双方の親が同意している場合:File changes to child support if both parties agree to the change


③親権・面会の変更 

双方の親が親権・面会の変更に同意している場合であっても、裁判所への提出が必要です。手続の詳細については、こちらをご確認ください。 

Request to change a child custody or parenting time order


④その他の変更

Required forms for changing a judgment or temporary order by agreement


❷ 合意内容を相手が守ってくれない場合


財産分与やアリモニーの支払いがなされない場合、離婚判決を出した裁判所にcomplaint for a contemptにより苦情を申し立てることで、裁判所により支払必要額及びその方法が明確化されます。それでも支払われない場合は、強制執行できる可能性があります。弁護士に相談しましょう。

Probate and Family Court Complaint for Contempt (CJD 103)


養育費が支払われない、または支払いが滞っている場合には、下記手段をとることができます。養育費は子どもの権利ですので、支払われない場合は速やかに弁護士に相談しましょう。


①Child Support Enforcement Divisionで援助を受ける

Child Support Enforcement Divisionの公的サービスに申し込むことで、養育費の支払い督促ついて援助を受けることができます。

Child Support Enforcement Division


②Complaint for a contemptを申し立てる

離婚判決を出した裁判所にcomplaint for a contemptにより苦情を申し立てることで、裁判所により支払必要額及びその方法が明確化されます。それでも支払われない場合は、強制執行できる可能性があります。弁護士に相談しましょう。

Contact - for Request overdue child support payments


子どもに面会させてもらえない場合、離婚判決を出した裁判所に対して、complaint for a contemptにより苦情を申し立てることができます。

Probate and Family Court Complaint for Contempt (CJD 103)


州外に子どもを連れ去られた場合は州法により、アメリカ国外に連れ去られた場合はハーグ条約及び連邦法により、子どもを元々の居住場所に連れ戻すことができます。但し、連れ去った相手方が刑事訴追される可能性もあります。弁護士に相談しましょう。

6. 用語集

用語集.pdf